ninchisho-yui-logo
menu

メニュー

clear ninchisho-yui-logo

2024.12.24

クリスマスイブのショートショートストーリー

トピックス

心の荷物預かり所

必見!最新情報

支給品の安物のダウンジャケットからは寒さがしんしんと身体に伝わってくる

朝付けたカイロもすでに冷たくなっていた。

今夜はクリスマスイブ。

高齢の男は先端が赤い誘導灯を廻しながら、

チキンを買いに来る大勢の人と車を整理する。

時には、「おっさん、ちゃんと誘導せんかい! 俺が先やろ!」と

若い男に怒鳴られ、同行の女性に睨まれる。

感謝ひとつ言われず、ひたすら一番忙しい夜を過ごす。

吐く息も白い、雪がちらほら降る深夜

店の看板の明かりが消されるとともに、男の長い一日の仕事も終わる。

すると、店の女の子が帰り際に、声を掛けた。

「おっちゃん、ありがとう。はい、お裾分け。」

そう言って小さな箱を渡すと、そそくさと帰っていく。

今日初めて言われた「ありがとう」の言葉。

 

男は一人で暮らす冷え切った部屋に帰る。

部屋の中でも息が白い。空腹を通り過ぎた空腹。

男はこたつに足を突っ込むと、女の子からもらった小さな箱を開ける。

余りものの形の崩れたチキンが一つ入っている。

男はそれを電子レンジに入れた温めた。

檸檬堂の缶の蓋を開け、

机の上に置いた小さなチキンに向かって手を合わせた。

「ありがとうございます。」

男が吐く白い息と、チキンから出る湯気が交差した。

 

クリスマスイブ。働く多くの人たちに感謝の夜